記憶を歩く。in ウッヂ
こんにちは。Kokoroベルリン支局(笑)のみきです。
先日、ポーランドの中心部に位置するウッヂ(Łódź)という街を訪れました。ワルシャワ、クラクフに次ぐ、ポーランド第三の都市です。古くから工業都市ですが、最近は街のいたるところに壁画があり、アートな街としても有名です。
そんなウッヂですが、ホロコーストの歴史から見るととても重要な場所なんです。
ポーランドにはもともとユダヤ系住民がヨーロッパの中でも突出して多く、ウッヂにも第二次世界大戦前には、およそ66万5000人(全人口の34%)のユダヤ系住民が暮らしていました。そしてこの街がナチスに占領されると、ワルシャワに次いでゲットー(ユダヤ人強制隔離地区)が1941年に作られ、1944年の閉鎖まで国内外各地から大勢のユダヤ人が送り込まれ、詰め込まれました。各地に作られたゲットーの中でも最も長く存在したのが、このウッヂ・ゲットーでした。一時は4km四方の中に約16万4000人の人々が押し込められ、不衛生な環境で、飢えに苦しみ、多くの人が犠牲になりました。また、ここが各地の絶滅収容所への出発点にもなりました。ゲットー跡地の近くには、その出発点となった駅があります。
ラーデガスト駅。ここから、ウッヂ・ゲットーに集められたユダヤ人が各地の絶滅収容所へ移送され、殺されたこと。それを忘れないために、駅舎と貨物列車が再現されています。
(※現在改装工事中のため、残念ながら中に入ることはできず…)
この駅舎から、長いトンネルのような通路がつながり、その壁面には「1939 1940 1941 ...1945」と年号が刻まれています。その先にあるのは…
絶滅政策、虐殺、詳しい解説展示があるわけではないけれど、この場所そのものが、その負の歴史、ユダヤ人の運命を想像し、犠牲者を悼む場所になっていました。
道路を挟んで反対側にはユダヤ人墓地(19世紀末からすでにこの場所にユダヤ人墓地があり、ゲットーの範囲内に含まれた)があり、そこにはウッヂ・ゲットー、ホロコーストで犠牲になった人々の名前がヘブライ語で刻まれていました。数えきれないほどのその多さに、言葉を失いました。
ところで、私たちKokoroは昨年、イスラエルで10名のホロコースト生還者の方々と出会う機会がありました。そのうちのお二人がラヘル、ロレク・グリュンフェルドご夫妻。笑顔が素敵で、話しだしたら止まらない元気いっぱいのご夫妻でした。お二人が生まれ育ったのがこの街ウッヂ。
現在、ゲットー跡地内には、「ダイアログ・センター」という記念館・情報センターがあり、ウッヂ・ゲットーの解説展示(残念ながらポーランド語のみ)や生還者の10のストーリーの紹介(英語併記あり)などを見ることができます。
そこに、ラヘルさんとロレクさんの展示も発見!
二人ともウッヂに生まれ、ウッヂのゲットーを生き延び、ここからラヘルさんはアウシュヴィッツ強制収容所へ、ロレクさんはドイツ国内のザクセンハウゼン強制収容所へ送られ、奇跡的に生還します。二人は戦後、ユダヤ人の若者団体で知り合い、恋に落ち、1946年に結婚、イスラエルへ移住します。
このセンターが位置するその場所一帯は公園でした。その名も「生存者公園(Survivors Park)」。ウッヂ・ゲットーを生き延び、ホロコーストを生還した人々を記念し、ウッヂ・ゲットー閉鎖から60年の2014年に造られたそうです。特徴は、現在は世界各地に移り住んでいる生還者の方々を象徴する木々と、それに沿って敷き詰められた一人一人の名前が刻まれた石板。
ラヘルさんとロレクさんの木々と石板も見つけることができました!
ホロコーストや戦争に関するメモリアルといえば、先ほどのラーデガスト駅の慰霊塔やユダヤ人墓地など、殺された犠牲者を記憶するものを目にすることが多いですが、ここは対照的に、生還し今も生きている人々を記憶するもので、私にとって新鮮で新しい視点でした。
さて、最後にもう一つご紹介したいことが。
始めにちらっと書きましたが、ウッヂには街のいたるところに様々な壁画アートがあります。その中には、ホロコーストで亡くなった子どもたちのものも。その中の一つがこれ。
この少年は、アウシュヴィッツのガス室で14才で殺された、アブラメク。ロレクさんの義弟です。1983年、ロレクさんは、母親の再婚相手の遺品の中から、アブラメクがゲットーの中で書いたある詩を発見します。『夢』と題されたその詩には、14才の少年の果てしない世界への憧れが綴られていました。ロレクさんの活動により、詩は現在17カ国語に翻訳されています。せっかくなので日本語版をご紹介。
ー夢ー
ぼくが二十歳になったら、エンジンつきの鳥に乗って、空高く舞い上がりより高い宇宙へと旅立とう
遠く美しい世界にむかって、海や川を越えていこう
雲はわたしの姉妹となり、風はわたしの兄弟となるだろう
ぼくは、ナイル川やユフラテ川に驚き、女神イシスが君臨した古代エジプトの スフィンクスやピラミッドを見下ろし、
ナイアガラの滝の水面を通り過ぎ、サハラ砂漠の焦げつく暑さに浸るだろう
チベットの頂を覆う雲の上をつきぬけ、神秘の大陸をへて、太陽の灼熱から脱出し、北極を飛び越えて行く
ジャイアントカンガルーの島をヒュッと飛び越え、ポンペイの遺跡の上にたどり着く
そこから、旧約聖書の聖地を見据える、著名なホメロスの国へ、ゆっくりと大空を旋回しながら旅は続いていく
こうしてこの美しい世界に魅了されつつ、高く天に向かって飛翔していくだろう
雲はわたしの姉妹となり、風はわたしの兄弟となるだろう
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明後日、10月18日は、ロレクさん95歳の誕生日。
生きていてくれてありがとう。そして私たち次の世代に記憶を繋いでくれてありがとう。
素敵な誕生日を!
以上、ポーランド・ウッヂからお伝えしました。